自分は純粋な名護言葉のネイティブ話者ではないので、文法や表現を学んでも自分の思い通りにすらすらとは話せないが、少しでも自分の言葉に近づけたく、時間があれば名護言葉による自然談話の音声資料を聞き込むようにしている。その音声資料というのが、NHK編の『全国方言資料第十巻 琉球編Ⅰ』付録のカセットテープと、平山輝男著『琉球方言の総合的研究』付録のフィルムレコードである。
そのうち『全国方言資料第十巻 琉球編Ⅰ』に収録されている名護方言の自由会話には「~わん」という表現(おそらく終助詞)が登場するのだが、これについて、沖縄語関連の文法として説明されたのをこれまでに見たことがない。
今日は、いくつかの資料に登場する「~わん」の文例をもとに、そのニュアンス・用法について考えてみる。
資料に見られる「~わん」の文例
まずは、自分が把握している「~わん」の文例について、出典を記載しつつ引用する。
なお、沖縄語の表記が発音(音素表記)のみしかない場合、読みやすさのため、通常このブログで用いている仮名混じり漢字の表記にしている(正確な発音は引用元をあたってほしい)。
日本語訳については出典にある通りの表記で、括弧書きにて引用した。
『全国方言資料第十巻 琉球編Ⅰ』(NHK編)
沖縄県名護町城 自由会話2 イルカ漁
- ああ、あね、あね!数久田ぬ 船 出じたるわん。なー、なー、ふぬうち、なーなーなーなー、ぬしかいわん。なーなーなーなー、干瀬 ぬしかてぃ ちゃーるわん、あんま。
(ああ あれ あれ!数久田の船が出たよ。そら そら まもなく そら そら そら そら 近づくよ。そら そら そら そら ヒシに近づいてきたよ、おかあさん。) - とー うり なー しち 立てぃたるわん。いったが 言せー、立てぃたんでぃ。
(もう それを まあ 取って 突き立てたよ。おまえが言うことだ、突き立てたということは。) - 東江ん わじかる ひてんどー。とー あぬ 村ぬ 前んがてぃ 青年達が 揚ぎるわん。
(東江もわずかしか取ってないよ。もう あの 村の前に青年たちが揚げるよ。)
沖縄県名護町城 あいさつ3 道で
- なー 年ん 取てぃ ゆぬ年なてぃ 我ぬかん てぃーちる しじゃー あすが、我ぬかんや 若はる あるわん。
(もう年もとって同年輩になって、わたしより一つ年上だが、わたしよりは若くあります。)
『沖縄県名護市幸喜方言の擬声擬態語語彙』(かりまたしげひさ・仲間恵子・宮城萬勇)
法政大学沖縄文化研究所発行『琉球の方言 37』掲載。
- アミヌ マギサヌ ウーバタナイ ディータルワン(雨がひどくて、びしょびしょに濡れてしまった。)
- アミニ ディーティ ガタナイ スーワン(雨に濡れてがたがたしてしまう。)
- ハジヌ チューハヌ、パタ パッタンパッタン スーワン(風が強くて、旗がぱたぱたとしている。)
『沖縄県名護市屋部方言の自由会話』(加治工真市)
法政大学沖縄文化研究所発行『琉球の方言 43』掲載。
- 治いんでぃちよー 医者がよー この おばーや 医者かんましる ゑーわんでぃち 言たん
(治るといってねえ、医者がねえ、このばあさんは医者よりも上であるわいと言ったものだよ)
「~わん」の用法について
相手に気付きを促す働き(?)
前述の通り、説明している教材がまだない(自分が知らないだけかもしれないが)ため、用法については文例から推察するしかない。先の文例の日本語訳がばらばらなことからもわかるように、おそらく一対一対応する日本語は無さそうである。
※文例にあるように名護近辺の言葉の資料には出現するが、中南部の言葉の資料で見かけたことはない。そもそも名護近辺だけの表現だったりするのだろうか。情報お待ちしています。
状況がはっきりしている『全国方言資料第十巻 琉球編Ⅰ』『沖縄県名護市屋部方言の自由会話』の文例を見るに、「~わん」は状況や話題を共有している2名以上の人物の会話において、相手に気付きを促したり、 相手の注意を誘導するような働きがあるのではないかと考えられる(日本語で言うと「ほら、○○だぞ」「○○じゃないか」「○○なようだ」的なニュアンス)。
一方、『沖縄県名護市幸喜方言の擬声擬態語語彙』の文例は、会話の中で出てくる文章を想定しているとは思われるものの、語彙集という資料の特性上、一文のみで登場するためどのような状況で使われるのかが判然としない。
先の用法(相手に気付きを促す・相手の注意を誘導するような働き)で使われているという前提で『沖縄県名護市幸喜方言の擬声擬態語語彙』を読んでみると、当てはまるようにも読めるし、当てはまらないようにも読める。
琉球諸語の研究者各位、検証お願いします🙇
ウチナーヤマトグチ「~わな」に相当する?
先の用法(相手に気付きを促す・相手の注意を誘導するような働き)を考えたとき思い当たったのが、「~わん」がウチナーヤマトグチの「~わな」に相当するのではないかということだが、これは必ずしも対応しなさそうである。
先に挙げた文例の日本語訳をウチナーヤマトグチ風にして、さらに「~わん」にあたる部分を「~わな」にして考えてみたところ、違和感があるケースとそうでないケースがあるようだった。
※この「違和感なし」も主観がおおいに含まれており、ガバガバ判定と思われるが、素人の言うことと思ってご容赦頂きたい。。
- 違和感なし
- このばあさんは医者よりも上であるわな、と言ったものだよ
- わたしより一つ年上だが、わたしよりは若くあるわな。
- そら そら ヒシに近づいてきたわな、おかあさん。
- 違和感あり
- 数久田の船が出たわな。そら そら まもなく そら そら そら そら 近づくわな。
- もう それを まあ 取って 突き立てたわな。
おそらく、「~わん」の用法の範囲にはウチナーヤマトグチの「~わな」も含まれるが、それだけではないということなのだろう(逆に言うと、ウチナーヤマトグチの「~わな」を使うときは「~わん」が使える?)。
*ちなみに、ここでいうウチナーヤマトグチの「~わな」は、日本語の「そういうこともあるわな。」の「わな」とは別物で、日本語で言うと「~じゃないか」に近いニュアンスなのだが、皆さまには伝わるだろうか・・・?本土の人が使っているのは聞いたことがなく、自分の身の周りの人はごく自然に使っているため、おそらくウチナーヤマトグチであると思ってはいるが、中南部や沖縄島以外のウチナーヤマトグチ話者の方は使われるだろうか。教えてください。
「~わん」を使う練習
ここまで「~わん」の用法について考えてきたので、これを自分の言葉にするためいくつか自分で例文を作って終わりとする。
- 此ぬ間る 2025年なたるむん、なー 3月 なたるわん。
(先日2025年になったばかりなのに、もう3月になってしまった。) - あんち はじょはぬとぅきに 子 そーてぃ出じーぬむん、だー、ぱなーぴき しみたるわん。
(あんなに風が強いときに子どもを連れて出るのに、ほら、風邪を引かせた。) - 今日やAが来んでぃ言ちゅたんどー。うり、ありが車ぬちゃーるわん。
(今日はAが来ると言っていたよ。ほら、彼の車がきたぞ。) - あが ぴっちゅー 名護とぅ那覇とぅ 行ちゃい戻たい しいねや、ガソリン代 ふしがらんわん。
(そうしょっちゅう名護と那覇を行き戻りしていたら、ガソリン代もキリがないでしょう。)
※否定にも使えるか、微妙な気がする。


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